2011年8月23日火曜日


  
 GNP、GDPは国の経済規模を測る指標として、また経済発展を測る指標として定着しているが、経済万能主義は誤りだとして、それに代わる発展の指標がかねてより追究されている。

有名なのは人間開発指数(HDI-Human Development Index)であり、厚生(ウェルフェア)の考え方としてインカム(所得)・アプローチからケイパビリティ(潜在能力)・アプローチへの転換を打ち出したノーベル賞経済学者アマルティア・センの影響下、比較的計測しやすい指標として国連開発計画(UNDP)が毎年計測、公表している(図録1130参照)。

幸福の大きさを指標にしようとする試みもある。ブータンのワンチュク国王は、約30年前に、単なる開発ではなく、少しでも「幸せ」を増加させることを国家の使命とすべきとして、「国民総幸福量」(GNH -Gross National Happiness)との概念を提唱したと言われ、GNHを測る指標も取り組まれている。2005年10月には、外務省主催(日本・ブータン友好協会共催)にて「ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム2005」が開催された。時事通信(2010年12月23日)によれば、「フランスではノーベル経済学賞受賞者らを集めてサルコジ大統領が設置した委員会は2009年、社会的発展を測る指標として幸福度の重要性を提言した。英国も幸福度の計測を検討中という。民主党政権は2010年6月、幸福度に関する統計の整備方針を「新成長戦略」に盛り込み、2020年までに「幸福感を引き上げる」との目標を掲げた。これを受けて内閣府は、経済学や社会学などの有識者らで構成する研究会(座長・山内直人阪大大学院教授)を設置し、同年12月に初会合を開いた。今後の議論では、諸外国や国際機関での取り組みを調べながら、日本特有の家族観なども考慮し、測定方法を開発するという」。 

私はかねがね幸福をどのくらい感じているかが最終的な基準ではないかと思っていた。貧しくとも幸せであり得、金持ちでも不幸せであり得るのである。しかし、幸福度は、何も、GDPやHDIのように無理矢理指標化する必要はなく、単純に、当人に聞いてみればよいのではと感じていた。世界価値観調査では、各国国民の幸福度を聞いているのでこれを図録化した。

世界価値観調査は、世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較している国際調査であり、1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000~2,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。

これによれば、幸福度(「非常に幸せ」と「幸せ」の回答率の合計)が、世界一なのは、ニュージーランドであり、これにノルウェー、スウェーデンといった北欧諸国が続いている。逆に幸福度が最も低いのは、モルドバであり、ザンビア、イラクがこれに続いている。

日本の幸福度は、57カ国中24位と、半分よりやや上の水準である。

男女別の結果の国際比較については図録9484参照。日本は女性の幸福度の方が高い。また、「幸せがお金で買えるか」という点を所得水準とここで取り上げた幸福度との相関から図録9482で探っているので参照されたい。

また、この図録の旧年次版(2000年データ)は図録9480xに掲載しておいたので参照されたい。旧図録では人間開発指数(HDI)との関連やブータンの状況にふれ、また、年次は異なるがここで掲載した国以外のデータも掲載している。

最後に、図に掲載した57カ国の名称と調査年次を以下に掲げる(英語ABC順)。アンドラ[2005]、アルゼンチン[2006]、オーストラリア[2005]、ブラジル[2006]、ブルガリア[2006]、ブルキナファソ[2007]、カナダ[2006]、コロンビア[2005]、キプロス[2006]、チリ[2006]、中国[2007]、エジプト[2008]、エチオピア[2007]、フィンランド[2005]、フランス[2006]、グルジア[2008]、ドイツ[2006]、ガーナ[2007]、英国[2006]、グアテマラ[2004]、香港[2005]、インド[2006]、インドネシア[2006]、イラク[2006]、イラン[2005]、イタリア[2005]、日本[2005]、ヨルダン[2007]、マレーシア[2006]、マリ[2007]、メキシコ[2005]、モルドバ[2006]、モロッコ[2007]、オランダ[2006]、ニュージーランド[2004]、ノルウェー[2007]、ペルー[2006]、ポーランド[2005]、ルーマニア[2005]、ロシア[2006]、ルワンダ[2007]、セルビア[2006]、スロベニア[2005]、南アフリカ[2007]、韓国[2005]、スペイン[2007]、スウェーデン[2006]、スイス[2007]、台湾[2006]、タイ[2007]、トリニダードトバゴ[2006]、トルコ[2007]、ウクライナ[2006]、米国[2006]、ウルグアイ[2006]、ベトナム[2006]、ザンビア[2007]

(2006年7月21日収録、8月10日ブータン情報追加、8月14日1995年値追加、2011年1月4日更新、1月5日幸福指標化の経緯追加)


「国民総幸福量」の指標は仏教~ブータンの視線
平成21年1月4日
 戦後六十年、日本はGNP世界第二位の経済大国となった。GNPとはGross National Productの略で国民総生産のことで、国民所得の大きさを表す。これによって確かに豊かさを享受した。ところが、独自の指標を「GNH」(Gross National Happinessの略)を打ち出し、国策としている国がある。仏教王国ブータンである。GNHとは、日本語で「国民総幸福量」と訳される場合が多い。

ブータンは九州より少し大きい国で、人口はおよそ65.7万人。インドや中国(チベット)に挟まれたヒマラヤ山脈の東の国。GNHを国内の開発計画の核に据え、急ぎすぎる開発を避け、身の丈にあった開発や発展を選ぶ事を国家方針としている。

 そして、生活環境整備や社会システム整備まで視野に入れているという。何事にも「中道」を選択する国王は、自然保護と開発のバランスを常に考え、仏教に基づく幸福を最大の目標としているという。 
 GNHはブータンだけではなく、今や世界的に研究されている。GNHに関する第一回国際学会が一昨年、ブータンで開かれ、今年六月にはカナダで開かれる。これまで世界的に経済指数を優先してきたが、GNHという指数の登場によって世界が変わろうとしている。その指標となるのが、ブータンが証明する仏教だ。   日常生活の隅々まで仏教の影響が行き渡っているブータンだが、こうした光景はかつての日本の姿でもあったような気がする。今の日本、GNH世界何位だろうか。
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